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W.S.モーム『読書案内 世界文学』

W.S.モーム『読書案内 世界文学』

  • 発行年月日:1997年10月16日
  • 発行元:岩波書店
  • シリーズ:岩波文庫

自分は読書は好きな方かと思うのですが、たいして文学を読んできておらず、一般に歴史上の名作や傑作と呼ばれるものは本当に読んでません。とはいえ、最近、もう年齢も年齢だし、主要な文学作品をなるべく系統的に読んでみたいなと思うようになりました。せっかく素晴らしい(と言われる)ものがあるのに、それを楽しまないでいるのは、本当にもったいないと思うのです。

ですが、星の数ほどもある文学作品の何を読んだらいいのか、見当がつきません。そこで、何か手がかりになるものはないかと思って見つけたのが、この本です。著者のモームは同じ岩波文庫から『世界の十大小説(上)(下)』も刊行されていて、かなり有名な本らしいのですが、とりあえず一冊で手軽に読めそうなので、こちらをまず読みました(十大小説もそのうち読みたいと思います)。

もともとアメリカの週刊誌に寄稿した文章とのことで、また翻訳もよいようで、すらすら読めます。全体がイギリス文学、ヨーロッパ文学、アメリカ文学の3つに分けられ、それぞれの代表的な作家と作品が紹介されています。今後の読書の参考になります。

 冒頭の「はしがき」では、モームがどのような観点から作品をリストアップしたのか、簡潔に述べられています。曰く「楽しくよめるということ」(12ページ)。他の箇所にも同様の記述があり、本書で自分が推薦した書物について、読んでみておもしろくないなら「どうか遠慮なくよむのをやめていただきたい。よんでも楽しくないならば、その書物はあなたにはなんの意味ももたないからである」(39ページ)と記され、あるいは、文学はどこまでも芸術であり、「そして芸術は、楽しみのために存在するのである」(112ページ)と断言されています。非常にいさぎよいと言ってもよいでしょう。

ただ、「楽しくよめる」というのは、それほど単純なことではないかもしれません。読書の「楽しさ」とはどういうことか、あらためて考えてみると、けっこう答えにくい気もします。モーム自身は、楽しく読めるというのは、その書物が読者にたいして「なんらかの直接的な意味」を持っているということであり、モームが推薦する書物は「普通の興味をもつ者であれば、かならずやその人の心に訴えるところがあるであろうと、わたくしは固く信ずる。どの書物も、わたくしたちに共通な人間性をもっているからである」(13ページ)とされています。前後の記述では、自分以外の人間に対する想像力と共感が必要といったことも書かれていました。他者への興味・関心といったことが、読書の「楽しさ」に関係しているのかもしれません。

それはともかく、推薦されている作家や作品にたいするモームの評価は、すべて名作と絶賛するのではなく、かなり辛辣なところもあり、モームがダメだと考える点は率直に書かれているように見えました。そのなかでも、欠点の指摘があまりないと思われる作家、つまりベスト・オブ・ベストは、ディッケンズ、オースティン、バルザックでしょうか。ディッケンズは「英国最大の小説家」、オースティンは「完璧な作家」、バルザックは「あらゆる小説家のなかで、最大の小説家」と評されています。まずは、この3人の作家の小説から読んでいけたらと思いました。しかしまあ、3人ともけっこうな数の作品があり、先は長くなりそうです。いや、楽しみではありますが……(^^;)

あと、なるほどなあと思ったのは、モームの次の指摘です。

公共図書館が利用でき、廉価版が手にはいる、今日のようなめぐまれた時代に、読書くらい、わずかな元手で楽しめる娯楽はほかにない。読書の習慣を身につけることは、人生のほとんどすべての不幸からあなたを守る、避難所ができることである。(40ページ)

「避難所」。たしかにそうだなと思います。モーム自身が続いて付記しているように、もちろん「飢えの苦しみがいやされる」とまではいかないでしょうが、でも、(村上春樹の小説ではありませんが)日々の生活で「やれやれ」と疲弊してしまうかなりの事柄にたいし、読書は、他にはない「避難所」になると感じます。いや、ほんとに。

# モーム

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