- 『チーム3』
- 実業之日本社
- 2020年03月09日頃
- ISBN: 9784408537535
東京オリンピック前、スランプに陥ったマラソンのメダル候補。箱根駅伝で伝説を作った男は、大ピンチを救えるかー!?オリンピック関連のスポーツ小説、4社リレー刊行!
堂場瞬一さんの長距離ランナーシリーズの第3作目を読みました。いやー、おもしろかった! このシリーズ、1作目、シリーズ外伝の『ヒート』、2作目とずっと読んできたのですが、シリーズを通じて同じキャラクターが引き続き登場するので、各人の性格やバックグランドがわかるとともに、月日の積み重ねもうかがえて楽しめました。
で、このシリーズの肝は、やはり山城悟ですね。もうほんと、このキャラクターだけでご飯3杯いけます(わけわからん……)。というくらい実に魅力的。傲慢といえば傲慢、「空気」なんか絶対に読まない。とにかく自分が進めべき道をひたすらに突き進む、それも徹底して沈着冷静に、です。あまりにも筋が通っているというか、言われてみれば「いや、その通り」と平伏しそうなくらい。でも、誰もそこまではできないことをやり通す。いいなあ、自分もこのくらい貫徹した生き方ができたらなあ、でも絶対にムリ……。
そして、山城悟をとりまく人たちも魅力的。シリーズを通じてもっとも深くかかわる浦大地はもちろんですが、今回は門脇亮輔がそこはかとなくよかったです。直接は描写されていないのですが、後半、伝聞というかたちで、ああそうなんだなあと納得しました(なんて、わかりにくいですね)。今回初登場、第2の主人公とも言える日向誠も、山城とはまったく違うというか、あまりにも普通すぎて、それがよかった。あと、まわりの登場人物と山城悟とのやりとりが、各自の思いと感情とが表れて読ませます。まあ山城というキャラクターが真ん中にいるからこそかもしれませんが、所々おかしくて、ちょっと爆笑してしまうところもありました。
でも、このシリーズ、本巻でもしかすると完結なのかな。山城悟から、まさかの言葉が終盤に出てきます。1作目から読んできて、もう本当に胸に迫ってきます。ラストの言葉も心に響きました。山城悟がここまで変わったこと、いや1作目の終わりから実はもう変化のきざしがあったのかもしれないけど、それが自分の意識と態度になり、言葉になったこと。一つの大きな区切りが打たれたように思えます。
もし本当に完結なら少しさみしい。とはいえ、今回の物語のなかには次につながる伏線ももしかしてあったかも……(どうかな)。変化したとはいえ、山城悟というキャラクターの魅力はそのままの気がしますし、また別の物語のなかで走る姿をぜひ見てみたいです。
ところで、本作の表紙絵、読み終わってから気が付きましたが、これは終盤のあのシーンを描いたものですね。自分のことしか考えていなかった山城があの言葉をかけるシーン。この表紙絵もよかったです。